TOUR Vol.9「情熱」ツアーパンフから

90年5月デビュー以来、年1枚のアルバムと年2回の全国ツアーを活動の軸にしてきた鈴木彩子。今回のこのツアーが9度目となる。最初はライブハウスからスタートした。客席に4人という時も、”悩みのトンネル”に迷い込んでしまったこともあった。悔しい涙、うれしい涙をいく度も流した。
――いまあらためて彼女にライブに対する想いを語ってもらった。今日、あなたが体験する鈴木彩子のライブと重ねて感じてもらえれば…と思う。

<Interview/轡田 昇>

――SAVOが一番に最初に見たライブというのは?

鈴木彩子(以下S):中学3年の時に見たアマチュア・バンドが最初でしたね。

――ああ、SAVOを知る人たちの間では今や語り種になっているあの?

S:そう。それが生まれて初めてだった。自分ではあんまり興味はなかったんですけど、ファンだった友だちがカッコいいっていうから、付き合ってあげようかって感じで。だってアマチュアだし。プロならまだミーハーな気持ちで、見たいなあとか思ってたかも知れないですけど…。

――ライブハウスですよね?中学生は出入りしてもよかったんですか?

S:ダメだったと思う。先生に見つかったら怒られたと思いますけど、ライブハウスに行っちゃダメっていう校則はなかったと思う。でもそこには制服のまま行ってたんで、ちょっと浮いちゃってた(笑)。

――じゃあ生まれて初めて行ったライブでインスパイアされて、その時にもう自分もこうなるんだと決心した、と?

S:そうです。自分の好きなことを自由にやってる感じで、楽しそうに気持ち良さそうに歌ってて…。私が通ってた学校はすごく厳しくて、枠の中に押し込まれるような雰囲気すらあって。なのにそのライブハウスにはいろんな人たちが集まってて、みんな自由で、その人たちを見ていたら、教室で勉強して、好きでもない部活をやって、狭い世界で生きていることがバカらしかったり、もったいないなと思えて…。次の日から自分を変えようと思ったんです。なんと言うのかなぁ、解放された気がして居心地が良かった。真剣に夢の話をしても誰もバカにしないし。教室でそんなことを喋った日には、みんなシラけた目で私を見たりしましたから。それで私もアマチュアから地道にバンドをやって東京に行こうと、その時に思った。

――それ以降、ライブハウスに足しげく通うようになるんですよね?

S:うん。その時のバンドが“〜未来は自分で開け 他人の手を借りようとするな いつかつかめるはずさ 諦めてちゃ何も見えない〜”って歌ってたんです。それがSAVOの『けがれなき大人への道』というアルバムに入っている「VOICE〜明日への滑走路」という曲なんですけど、その詞がスコーンと自分の心の中に飛び込んできた。そんな彼らに魅せられて、その人たちのライブがあるたびに通ってた。ちょうど受験の時期だったのに勉強もしないで(笑)。だからその最初のライブに行ってなければ、今の自分はなかったと思う、確実に。それは言い切れる。自分の中で、毎日こんなふうに流されながら生きてていいんだろうかとかという不満を持ちつつ気づかないふりをしていた時期に、たまたまそのバンドに出会えて、たまたまその曲を聴いて…タイミング的にもいろんな要素が一気に弾けたんでしょうね。それで殻が破れたんだと思う。

――その衝撃を受けた日の記憶は鮮明だったりします?

S:はっきり覚えてます。確か1986年の10月9日です。自分はまだ中学3年の14歳。

――それが運命の日になったわけですね。じゃあ単に歌手になりたいというよりは、ライブ・アーティストになりたかったということですよね。

S:イメージの中ではバンドがやりたかったというか…。

――それで、結局、紆余曲折あって、SAVO自身が実際にステージに立ったのは、デビュー直前の…。

S:17歳の頃。大宮フリークスというライブハウスで4曲歌った。

――ブレイクする前のリンドバーグと一緒だったという時?

S:そうです。

――4曲ということは、もうその時点では曲ができていたと?

S:デビュー曲の「独立戦争」とバラードの「O.K.」という曲が出来ていたんで、その2曲とカバーを2曲歌った。

――運命の日(10月9日)にあるバンドのライブを見て、自分もそう(=ライブ・アーティスト)になりたいと決めて、東京に出てきたり仙台に戻ったりしながら、ようやくライブ・アーティストとしての第一歩を大宮で踏み出したその時の気持ちはどうでした?やっと自分もステージに立てるようになったという感慨深さはありました?

S:なかったですね。本当は自分でもちょっとは期待してたんですよ、ちょっと感激するんじゃないかって。でもなかった。その時に生まれて初めて人前で歌を歌ったわけで、何が何だかさっぱりわからなかった。やっとステージに立てたんだと感動する暇も余裕も全然なくて、自分がどこで何をしているのかわからないまま、4曲はあっという間に終わってしまった。ライトでお客さんの顔が見えないから、ひとりぼっちで広〜いカラオケ・ボックスにいる感じ。それなのに妙に緊張していて。自分の勝手なイメージと現実との間にかなりのギャップがあったから、反省する以前にダメだなあと思って自信をなくしてしまった。今思えば、初めてなんだから、やりたいように走り回っちゃえばよかったなぁと思うんですけど…、やれなかったんですよねぇ(笑)。

――ステージに立つことに対する不安というのは、今でもあったりします?

S:無くなってはいませんけど、あの頃の不安とは種類が違いますね。

――その頃の不安が取り除かれたのはいつ頃ですか?

S:サード・ツアーが始まる前まではあったような気がする。

――サード・ツアーでなんとなく自信がつかめた、と?きっかけは何でした?

S:当時のメンバーの一人が楽屋で”自信を持って、自分は絶対に勝てるんだと思えば結果はおのずとついてくる”という相撲取りの話を例えに出して“内容はどうであれ、自分が自信をもって一生懸命にやれば、いいライプができるものだ”というような話をしてくれたんですよ。本当かなぁとは思いましたけど、ダメでもともとだし、とにかくまずは自分が楽しもうと思って開き直ってステージに登ったら、それが本当に楽しくて。結果的に周りの人たちも”良かった”って言ってくれて。それでかなり不安は取り除かれたような気はします。

――他のアーティストのライブはかなり見たりしてます?

S:まあまあ、かな?

――例の運命の日のライブ以外で、印象的なライブはありました?

S:みんなそれぞれいいところがあるから。テクニックとかステージの効果は別に、アーティスト自身が一生懸命に頑張っているライブは、みんなそれなりにいい。あとね、他の人のライブに行って、お客さんが感動している顔を見てるのが好きなんですよ。みんないい顔をしてる。

――自分のライブでもお客さんの顔って見えるものですか?

S:見えますよ。照明によって見えない曲もありますけど。会場に来てくれた人たちの満足げな表情が自分の起爆剤になっていたりしますから大切なんです。

――ツアーを目前に控えている時に、最も大事にしていること、心がけていること、気をつけていることって何ですか?

S:前々回のツアーまでは、自分を崖っぷちまで追い込むという作業が必要だったんです。ツアーが始まる1ヶ月くらい前から、外の世界から遮断する感じで、一人で家に籠もってた、ライブって、精神的なパワーをたくさん使うから、何回やってもなくならないくらいに、いろんな思いを自分の中にいっぱい入れておかなきゃっていう…。そのためには遊びにはいかないし、人ともあんまり話さないし、悲しい映画も見ないようにして(笑)。で、自分を崖っぷちまで追い込んで、ライブでいろんな思いを吐き出すようにしてた。だからツアーの直前なんか、まったくの別人だった。ちょっとカリカリして、リハーサルで喧嘩してみたり。自分と同じテンションじゃない人のことを認めたくなかったんだと思う。

――最近は違う?

S:自分を追い込むことはしなくなりましたね。そうしなくても、いろんな思いはいくらでも溢れてくるんですよ、自然に、歌った直後から。だからすごくリラックスできてますね。

――自力がついてきたということでしょうか。

S:メンバーを含めた多くのスタッフとの間に、信頼関係ができてきたんだと悪うんです。以前は自分一人で項張るぞって感じだったから。あと、自分を追い込まなくなったもう一つの理由には、さっきも話したように、自分の気持ち次第で不安も自信に変えられるってことを最近あらためて思い返すことができたからなんです。絶対に大丈夫なんだと思っていれば、空回りすることもないし、メンバーのテンションの高さまでわかるようになってきたし。

――そういう、例えばメンバーのコンディションの具合までわかるようになったということは、キャリアですか?それとも信頼関係ですか?

S:キャリアのほうが大きいと思います。仮にすごく信頼している仲間とステージに立つとしても、1回目からパッチリ上手くいくことはほとんどないと思うんで。何本もやっていくうちに、いろいろ見えてくることがあるから。

――たった1回のステージでもいろいろ難しい問題があるわけですから、それがツアーとなると体調を維持したり、テンション高めたりリラックスさせたり、かなりのエネルギーを使うことになりますね。

S:実際に大変なことが多いですね。いちばん嫌いなのは、暗いホテルの部屋に一人で泊まらなきゃいけないこと。常に喉をいい状態に保っていないといけないから、他のメンバーやスタッフたちのように、ご飯を食べた後に飲みに行ったりできない。お酒を飲まなくても、みんなと一緒にいればどうしても喋っちゃうじゃないですか?それがまた喉に悪い。そう思うと部屋に戻っちゃうんですよ。ホテルの暗い灯りの中で一人でしょんぼりしてて。でも、私が帰る時は新田さん(社長でありプロデューサー)も帰らなきゃいけないから新田さんもカワイソウ(笑)。だけどライブ終わった後はテンションが高くなっているからなかなか眠れない。結局一人でゲームボーイで遊ぶことになったり(笑)。で気がつくと落ち込んでたりするんですよ。その、一人でいる時間の使い方がわからなくて、それで不安になっちゃうことがある。

――それは大きな問題ですね。

S:おまけに前回のツアーでは、体調を崩して青森のライブを延期しちゃったでしょう?その時はショックと悔しさで、部屋でずっと泣いてたんですよ。で、泣きつかれて寝て、起きたらまた眠れなくって、何しようかって思ったら、何もすることがなくて。ライブを飛ばしちゃって申し訳ないし、自分が情けなくて。

――ステージ活動をしてきている中で最も屈辱的なことというと、やっぱり飛ばすことですか?

S:そうですね。楽屋のテレビ・モニターに映るんですよ、ステージが。照明さんや音響さんもスタンバイを終えて、あとは本番を待つだけというそのステージが、結果的に披露されることなく片付けられていくステージの様子が。それを見てたらもう頭がパニックになって、もう歌をやめなきゃいけないんだってところまでいってしまったから。

――逆に最大の歓びというのは?

S:例えどんなライブでも、最後にメンバー全員で手をつないで“ありがとう”って挨拶する瞬間は、何ものにも換え難い歓びですね。達成感や充実感で満ちているというか、何回やってもあの瞬間がいちばん感動的ですね、自分の中では。それでね、頭を下げる時に自分の膝とか靴、メンバーの靴までが見えるんですよ。そんな時の、その膝っ小僧がすごく愛しく見えるんですよ(笑)。

――多くのアーティストが、ステージは麻薬みたいだってことを言いますけど、そういう瞬間を何度も味わいたくてまたステージに立つんですね。

S:そうだと思いますよ。

――そんな至福感を味わうためにも、ステージに上がる前に心がけなきゃいけないことは何でしょう?

S:大事なのは“やる気”なんですよ。例えば、嫌なこととかがあって落ち込んでるのに、私は大丈夫よ、元気よって無理に笑顔作るのは嫌なんですね。嘘はつきたくないし、自分を偽ってまでステージに立ちたくない。だから自分のテンションは最低でも、そんな自分なりに精一杯やろうと思うんですよ。それも自分には違いないんだし、その中で一生懸命にやれば、それはもしかしたら最高のライブかも知れないじゃないですか?大切なのは、とにかくありのまま自分を全部出し切って、精一杯やろう、今の自分にやれることをすべてやろうという気持ちになることだと思う。そういう意味での“やる気”なんですけど。

――で、今日に至るわけですが、現在の鈴木彩子にとってライブとは?という質問をさせてもらうとしたら、どう答えますか。

S:ライブとは…、聖なる場所かな。ステージという意味ですけど。十字架でもいいし神様でも仏様でもいいんですけど、その前で歌わされているみたいな…。嘘ついたらすぐにバレるし、正直な気持ちでいないと、見透かされてしまう。もちろん、お客さんにも。そんなイメージですね。

――アーティストの活動の基盤として、もうひとつアルバムというものがありますが、やっぱりライブとアルバムはまったく別なものですか?

S:大切さの次元が違うんですよ。

――じゃあ例えば、ライブもしくはアルバムの、どちらか一方の表現の場が奪われてしまうとしたら、どっちを選択しますか?

S:うーん、どっちも嫌(笑)。どっちも大切だから…。

――欠かせないものでしょうね、どっちも。それは、あなたはお父さんの子ですか、お母さんの子ですかって言われてるようなものだし。

S:あっ、それそれっ、その感じですよ、まさに(笑)。

――今現在は、ステージというかライブに関して、不安な要素はないんですか?

S:詞を間違えたら、段取りを間違えたらどうしようっていうのはあるんですけど、その程度です。だからといって安心しているわけでもなくて、課題はまだまだたくさんあって、とにかくいかに自分を最高のところまで高めることができるか、と同時に、いかに自分に嘘をつかずに本当の自分でいられるかっていうことだと思うんです。それはこの先もずっと続く永遠の課題だと思います。もう5年もやってきて、今はいつダメになってもいいやっていうふうに思えるようになったから、気分的にはとても楽ですね。それは決して諦めとかじゃなくて、1回1回死ぬ気で頑張って、これ以上に自分は出せないというところまで達したなら、必ずなにか伝えられると思うし、満足できると思うんです。それで伝わらなくなったらそこまでなんだと思う。その結果、お客さんがこなくなったらやめるしかないわけですけど、こなくなったらやめるしかないですけど、こなくなったらやめるしかないですけど、自分を偽ったりごまかしてまで、お客さんを増やして音楽の世界で生き残ろうという気はまったくない。以前は、ちょっとだけやましいことを考えたこともあって、応援してうれるスタッフやファンの人たちに恩返しする意味で、早く売れたい、もっと売れたいと思ってた時期もあったけど、今は自分に嘘をついてまで続けたくないんですね。だから太く短くでもいいと思う。人生に対しても同じで、長生きできればそれにこしたことはないんですけど、空っぽの人生を長生きするくらいなら、短くても、その中身がすごく濃ければいい。そう自分に言い聞かせてます。

――何かそう思えるきっかけがあったんですか?

S:エイズをテーマにした歌を歌ったのがきっかけかな。もし自分がエイズだったらとか考えた時に、やっぱり死ぬって怖いことだと思ったんですけど、いかに充実した人生にできるかが大事だと思えた。それは歌をうたうことも同じ。

――もうすぐ9回目のツアーがスタートしますけど、次に控えているツアーに関してはどんな感情が強いですか?

S:楽しみが気持ちが一番強いかなぁ。楽しみというのは、新たに挑戦するんだっていうワクワクした感じというのかな。

――それは何に対してですか?

S:「愛があるなら」のアルバムの曲を中心にやろうと思っているんですけど、アルバムを作る時にはいろんな思いを込めながら作っているんですけど、曲には詰め込みきれていない感情というのもたくさんあって…。自分としては、この曲にはこんな思いがあって、それでああでこうでと……風呂敷5杯ぶんくらいあるんですよ(笑)。本当はもっといっぱい言いたいことがあるのにっていつも思う、曲を作ると。でも全部は入れられないから言葉を選んでる。だからライブでは、それらの1曲1曲を、みんなが耳と目と心で、より深い部分まで受け取ってくれうように、そして局に込めたSAVOのさまざまな思いが全部伝わったらいいなと思うんですよ。だけど、自分一人の力ではなかなかそこまではできなくて、そのためには、メンバーの気持ちもひとつにならないといけないだろうし、演奏もレベルが高くないといけないし、照明もPAもそうだし、細かな部分までいろいろみんなで考えながらSAVOの思い描いている世界が伝わりやすいようなステージにしなきゃとは思うんですけど、それがまた楽しみというか…。きちんと伝わるかなぁ、ちゃんと表現できるかなぁ、どうやれば伝わりやすいかなとか、表情はどうしたらいいかなぁ、動きはどうかなぁとか、そういうことをひとつひとつ考えると面白いし楽しみなんですね。で、結果的に伝わればすごく気持ちいいと思う。そういう意味では、新たなことに挑戦できるか、そして実践できるかにワクワクしてますね。

――SAVO自身がそう思う以上に、周囲の期待もどんどん大きくなっていると思うんですけど、プレッシャーを感じることはないですか?

S:最近はないですね。以前は結構あったんですよ。SAVOはね、意外なくらいお人好しなところがあって、周りの意見に左右されることが多かったんです。いわゆる八方美人だった。いろんな人が”彩子ちゃん、ああしたほうがいいよ、こうしたほうがいいよ”ってアドバイスしてくれることを、全部やらなきゃいけないような気になってた。例えばそうすると、中には”黒のほうがいいよ”という人もいれば”白がいいよ”という人もいる。だけどその両方を一度に満たすことはできないじゃないですか?そうするとグレーにして自己満足してた自分がいた。でも、そうしているうちに、他人の意見に左右されて”自分”というものを見失っているな、ということに気づいたんですよ。10人いれば10通りの、100人いれば100通りの意見があるわけだからそれを全部満たすことは不可能なんです。それなら、どう思われても、自分がこうだと思える方向に進むしかない。そう思えるようになってからは、随分リラックスできてますけど。ただ、やっぱりその日集まってくれたお客さんや、周りのスタッフ全員の心を満たすことのできるステージにするということは、ライブ・アーティストの永遠のテーマだとは思いますけど。

――でも、そんなふうにいろんな考え方がライブを抜きには考えられなくなってきているということは、すっかりライブもSAVOにとって”日常”ですよね。ライフワークというか…。

S:そうですね。初めて大宮フリークスのステージに立った時には、こんな日がくるとは、まったく想像もできませんでしたけどね(笑)。ただ、ライブ・アーティストにゴールはないんで、もっともっと自分を磨いて、感動の質と量を高めていかなきゃいけないとは思ってます。

――こうして話を聴いていると、確実に成長している鈴木彩子を感じるし、同時にまた次のツアーがとても楽しみになりますね。

S:そういってもらえるとすごく嬉しいですね。楽しみにしてて下さい。